雇用問題の研究者らによる「労働経済学コンファレンス」の報告をもとに、1990年代の雇用や失業の実態を経済学の観点から明らかにした本書は、そうした「常識」を覆す刺激に満ちた内容になっている。
雇用削減によって株価を上げた企業は、実際にいくつもあげられるが、本書はその真偽を測るために、イベント・スタディという手法を用いて企業による雇用削減のアナウンスと株式の超過収益率の関係を検証。業種、削減方法、削減規模、経営状況別の分析を行ったうえで、1993年以降は雇用削減が株価にプラスに働いたが、1990年代後半になると一概には言えなくなったこと、経常利益が増加している企業による「早期で前向きな『攻めのリストラ』のみが市場で評価されている」ことなどを明らかにしている。さらに、アメリカでは雇用削減が株価にプラスに働かないという興味深い事実も報告している。
また、個々の大型小売店の分析から、そこにパート社員の増加と正社員の雇用減少という代替関係は当てはまらず、企業にとって代替のインセンティブも弱まっていること、繊維産業の分析から、年功制は企業業績を高め、雇用を拡大するという解釈が成り立つこと、失業者の求職行動の分析から、失業給付の延長は失業率をさらに高め、モラルハザードを生んでしまうことなども実証している。
1990年代からの激変する労働市場に対する、初めての本格的な分析と実証の試みであるという本書。さまざまな「常識」を覆すだけでなく、中高年の再就職の成功には送り出し企業の積極的な関与が有効である点を導いたり、雇用創出と雇用喪失の背景に「同一事業所内部における雇用機会の活発な新陳代謝」があるのを浮き彫りにしたりなど、今後の問題解決に向けた議論に一定の方向性を示している。雇用問題に関する議論に一石を投じた、注目の1冊である。(棚上 勉)



